倉木真二のブログは終了いたしました。
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2016年03月23日

シャフトの剛性、振動数、フレックスに関するご相談です

【質問】
「倉木様

シャフトの剛性と振動数とフレックス選択について、ご意見を伺えればと思い質問させていただきました。

ブログを拝見していると、シャフトのバット側をカットすると剛性が下がるという表現が見受けられます。
確かに一般的なシャフトの剛性分布からすると、硬いバット側をカットするのですから、カット前に比べて手元は柔らかくなるという考えは理にかなっていると思われます。

一方、ゴルフのシャフトの硬さを表す指標として振動数というものがあり、こちらについては長さだけ違うのクラブが日本あった場合、短い方が振動数が高いことが一般的だと思われます。

バットカットすると手元が柔らかい=シャフトが柔らかいはずだ、にも関わらず、振動数は高くなるという矛盾が気になったことが質問させていただいた経緯でもあります。

クラブセッティングでこのような矛盾があるポイントはPWからAW,SWの流れと1Wから3W,5Wの流れの2点だと思われるので、それぞれについて教えて下さい。

1. PWからAW,SW
全てPW用の同じシャフトを挿すのが一般的なだと思われます。
アイアンセットのPWに比べ、AW,SWは単品クラブでは短いこともそうですが、ネック長も長くバットカット量はAWで0.5インチ、SWは1インチ程度短いと想定されます。
つまりは、AW,SWはPWに比べて柔らかいということになってしまいます。
倉木様のお考えとしては、PWがSフレックスの場合、AW,SWはXフレックスにした方が良いのでしょうか?

2. 1Wから3W,5W
1Wと3Wに同じ硬さのシャフトを挿す場合、3Wの方が2インチ程度短くなるとすると、3Wの方が手元がかなり柔らかくなると想定されます。
倉木様のお考えでは、3Wもチップカットすべきとの記述を見受けられますが、1Wと3Wの手元の剛性を揃えるくらいの意識で大丈夫でしょうか?
3Wの方がヘッド重量が10g以上重いとすると、そこも考慮した場合、1Wと手元剛性を同じにする以上に3Wの手元を硬くする必要があるように思われます。
そうなりますと、チップカットでは対応出来ず、フレックスを上げるしかないように思われます。
倉木様のお考えとしては、1WのフレックスがSフレックスの場合、3W,5WはXフレックスにした方が良いのでしょうか?

いずれのパターンでも、SWはフルショットしないためアイアンセットのシャフトより柔らかいものを、ドライバーは長いため3W,5Wより硬いシャフトを、と上記とは真逆のセッティングをよく見るため、どちらが正しいのかよく分からなくなってしまいました。

以上よろしくお願いします。」



【回答】
シャフトはどんなカット方法でもカットすれば振動数が上がります。
重量なのは振動数の絶対値ではなく長さに対する振動数(相対値)の比較です。
簡単に説明すると振動数はウッドの場合1インチ差で5cpm変化するのが妥当です。

・46インチ260cpmと45インチ265cpmが同等

となります。
振動数は長さに対する数値で比較するのが妥当です。
46インチ260cpmのクラブを1インチバットカットして45インチにした場合、振動数は262cpm程度になります。
同条件で1インチチップカットした場合、振動数は45インチで265cpmとなります。
(厳密にはこのようにならない場合もあります)
チップカットをした場合は相対的な硬度の変化が基本的には起こりませんがバットカットした場合は振動数そのものは上昇しても相対的な硬度が低下します。

・バットカットの場合の相対的な振動数の比較
46インチ260cpm > 45インチ262cpm

・チップカットの場合の相対的な振動数の比較
46インチ260cpm = 45インチ265cpm

振動数に関しては簡単に説明すると以上のようになります。

・PW、AW、SWについて
原理と目的と知ると理解が簡単になります。
おっしゃるようにメーカー純正品ではPW、AW、SWで同じシャフトを装着する場合が大半であり、AW、SWの方がクラブ長が短くさらにネック長が長いためにシャフト単体の長さが短く振動数の絶対値がPWより高くても相対的な硬度がPWより低くなります。
また振動数だけではなくシャフト剛性分布もPWよりも低くなります。
その結果、弾道にどのような変化が生じるかというと

・打ち出し角度が低くなる
・バックスピン量が増える

といった変化が生じます。
チップカットした場合は反対の変化が生じます。
シャフト剛性分布的にはシャフトの中間部分がPWよりも柔らかくなり粘り感が強くなります。

次にAW、SWの目的ですがハーフスイングで粘るフィーリングと低めに打ち出してスピンが効くような弾道を望む場合はPWと同じシャフトを装着してチップカットをしない方が目的に適います。
単純なシャフト剛性分布の流れ、シャフト振動数の相対的な硬度の流れを合わせることを目的とするならクラブのソールからシャフトのファーストステップまでの距離をPW、AW、SWで揃えると良いのですがこれは流れを揃えているだけで目的に合っているかどうかが無視されている可能性が高いです。
このような揃え方をするとAW、SWでの弾道が高く上がるようになり低く抑えた弾道が打ちにくくなります。
ただしPWからAW、SWまで一定に徐々に高くなっていく弾道を望むならこのような流れを重視した組み方をすると目的に適います。
どちらでも問題はありません。重要なことは目的に合った組み方をしているかどうかです。

ドライバーとフェアウェイウッドの関係はより複雑です。
シャフト剛性分布とはシャフトの曲げ剛性が一般的ですしメーカーもそうしています。
一定のしなり量を確保するために必要な重量をシャフトの部分毎に計測しそれをグラフ化することでシャフト剛性分布ができます。
シャフト剛性分布は番手が短くなる毎に徐々に上昇していくことが好ましい流れとなります。
ドライバーとフェアウェイウッドを同じシャフトにし、フェアウェイウッドをバットカットのみにした場合剛性の高い手元部分のカット長が増えるのでドライバーシャフトよりも剛性が低下します。
剛性が低下することだけではなくシャフトの剛性分布の特性が大きく変化します。
少し詳しく説明するとバットカットが多いほどシャフトの中間部分の相対的な剛性が低くなり、シャフトの粘りが強くなります。
すると、打ち出し角度が低く、バックスピン量の多い弾道が出やすくなります。
ざっくりとした一つの実例を出しますと、21度のフェアウェイウッドでカット後の長さが同じクラブが二本あり、片方がチップカット2インチ、片方はチップカット0の場合、打ち出し角度は3度、バックスピン量は2600rpm程度変化しました。

・チップカット2インチ:打ち出し角度16、バックスピン4000
・チップカット0インチ:打ち出し角度13、バックスピン6600

剛性がドライバーよりもフェアウェイウッドの方が高い状態に仕上がっても剛性分布の特性(簡単に言えば中間が硬い弾き系か、中間が軟らかい粘り系か、など)が揃わないと流れは悪くなります。

その他、ウェッジと同様に目的によって加工をする必要があり流れだけを揃えれば良いこととはなりません。
ですがドライバーとフェアウェイウッドを同じ重量のシャフトにした場合フェアウェイウッドの方が相対的なクラブ重量が軽くなります。
単純にフェアウェイウッドの方がシャフトカット長が多くなりシャフト単体の重量がドライバーよりも軽くなってしまうためです。
これは絶対的なマイナス点でメリットはありません。
フェアウェイウッドはウェッジとは違いハーフスイングすることはまずありませんのでフルスイング時のフィーリングがドライバーと揃う方が良いです。
そうするためにはドライバーと同じシャフトを選択しない方が良いです。
ベストな選択にドライバーとフェアウェイウッドを同じシャフトにするということは滅多にありません。(例外としては有ります。ドライバーが長尺、など)

つまり

・剛性分布が1WよりFWの方が少し高くなるようにする
・合成分布の特性を揃える
・クラブ総重量の相対的な流れを合わせる

ことが基本となり、これを達成するために様々な方法が存在する、ということとなります。
これらを考慮すると結果的に相対的な振動数も近くなります。

これらを達成するために多い方法は同シリーズで10g程度カット前シャフト重量が重いものを選択するという方法です。
その上で

・仕上がりクラブ長
・ドライバーとフェアウェイウッドのネック長の差(ソールからシャフト接合部までの長さの差)
・フレックス選択
・チップカット長

などを考慮して組み上げます。
このようなノウハウの蓄積がクラフトマンの仕事の一部なので加工する時はノウハウがあるクラフトマンに相談した方が良いです。
良い工房では仕上がりクラブのシャフト剛性分布の表も渡してくれます。

上記は1W、FWの流れを汲んだだけの基本的な加工です。
これに加えゴルファーの目的やスイングのタイプにあった組み上げをするとよりよくなります。
一例を挙げるとドライバーだけはティーを高めにしてアッパー気味に打つタイプの場合はドライバーだけ手元の剛性を高めフェアウェイウッドとの流れを汲まなくても問題ありません。
ドライバーとフェアウェイウッドのスイングの差が大きくなる(そしてそれを目的とし意識的にする)ので問題ないということです。
これは女子プロゴルファーに多めに見られるパターンです。

簡単な基準は

・ドライバーはチップカット無し
・フェアウェイウッドはドライバーより重いシャフトで0.5〜1インチ程度チップカット

となります。
弾き系シャフトの場合はフェアウェイウッドのチップカットを少なくする傾向があり、粘り系は逆です。
弾き系の場合はチップカットするほど打ち出し角度とバックスピン量の両方が減ってしまう可能性があるためです。

つまりはクラフトマンとたくさん話をして相談して組むことがフェアウェイウッド制作の成功のポイントです。
インターネットでも良いクラフトマンをたくさん見つけることができますので相談すると良いでしょう。

余談ですがこれらを考慮してドライバーとフェアウェイウッドのシャフトの組み合わせを作っている時に感じるのはグラファイトデザインと三菱レイヨンと藤倉シャフトの剛性分布の設計の素晴らしさです。
一つ上の重量帯のシャフトにするとそのまま剛性が上がりフレックスを上げれば同じ剛性分布の特性を維持したまま変化してくれるので狙った性能を実現しやすいです。

非常に面倒に感じるかもしれませんがやるだけの価値があります。
なぜならこれらが考慮されたフェアウェイウッドは非常に打ちやすく本当に心の底から素晴らしいと感じるクラブに仕上がるためです。
藤倉シャフトのMCIのような長さ別専用設計のウッド用カーボンシャフトが発売されればこのようなややこしい問題の大半は解決されます。